学生の思想を読む

国ではなく国語に住む我々の、思考の差異を追求します。

経済格差が中東にもたらしたもの

1.経済格差が中東にもたらしたもの

 石油ブームが一段落した後、貧しい国からの出稼ぎ労働者が自国へ戻った。そうした貧しい国はどのような状況に置かれたのか。それは出稼ぎ労働者からの自国への外貨送金がなくなり、国内に新しい失業者が出るという深刻な社会政治問題につながった。その結論として、産油国と非産油国の経済格差はその双方に不安定要因をもたらすことになった。

 2013年の一人当たりGDPが最も高い国はカタールで、同国のムスリム(イスラム教徒)人口比率は78%である。続く二位のアラブ首長国連邦には76%、三位のクウェートは86%のイスラム教徒がいて、いずれもアラブ国家である。日本はこれらの国と比べると、一人当たりのGDPはそれほど高くない。サウジアラビアの97%、ブルネイは52%と国民のほぼ半分がイスラム教徒である。バーレーン81%、オマーン88%、リビア97%、トルコは実践しているかはともかく統計上は99%、レバノン60%、マレーシア61%、アゼルバイジャン98%、イラン100%、イラク99%、アルジェリア98%、ヨルダン99%、チュニジア100%、モロッコ100%、イエメン99%、モーリタニア100%などの国がそれぞれ高いムスリム比率となっている。

 上記は一人当たりのGDPであったが、2017年の国別のGDPではアメリカが世界一位、中国が二位、日本が三位、以下ドイツ、イギリス、インド、フランス、ブラジル、イタリア、カナダ、ロシア、韓国の順となっている。

 2017年の一人当たりの購買力単価は、一位がカタール、以下マカオルクセンブルクシンガポール、と続き8位にアラブ首長国連邦、9位にクウェートが入る。日本はここで上位に入らず、アメリカが12位、15位サウジアラビア、26位オマーン、と続いて31位でやっと日本が来る。日本は国としては豊かであるが、一人当たりでいうと決して豊かとは言えないことがわかる。中東の国々を抜粋するとイスラエルが37位、トルコ55位、イラン68位、イラク79位、レバノン89位、ヨルダン114位、イエメン167位、アフガニスタン173位となっている。ちなみに世界で一番購買力の低い国は中央アフリカである。

 中東の国々における石油の確認埋蔵量は以下の通りである。

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2.経済面における産業優位

 イランはアメリカが石油輸出に対する様々な経済制裁を行っているが、やはり世界で二番目に石油の埋蔵量を誇るだけの影響力がある。サウジアラビアとイランはこれだけの石油埋蔵量があるために中東における覇権争いがあることが予想される。日本の石油輸入相手国は、1989年と2016年で変化があることから、世界の経済制裁に影響を受けていることがわかる。ベルリンの壁が崩壊し、ペレストロイカなどの影響から1990年5月にイエメンが統一しイエメン共和国の誕生がおこった。イエメンの統一によって経済面での産業優位に加え、それ以前の1987年4月に南イエメン北イエメンの国境地帯に良質の油田が3カ所発見された。

 このことによってサウジアラビアの反応は、南北イエメンの統一の阻止に動いた。サウジアラビアはこれまで北イエメン支配下に置いていたが、南イエメンは趣味が違った。統一し産業が優位になったことで都合が悪くなった。イエメン共和国の誕生がサウジアラビアの安全保障の直接の問題に関わってきた。従来サウジアラビアが握っていたアラビア半島の覇権が脅かされる脅威を抱いたためである。

中東の経済体制

1.中東の経済

 中東の国々が貧しいのか、富んでいるのか。その問いの答えは国によって異なる。答えを分ける事情は①石油、②人口の二つによる。

 ペルシャ湾岸の八か国(サウジアラビアアラブ首長国連邦カタールバーレーンクウェートなど)は石油を算出する富んだ国であると言える。特にクウェートはほぼ完全な福祉国家である。

 対してレバノン、モロッコ、イエメン(旧:南イエメン)には石油が無い。さらにエジプト、チュニジアスーダンは人口増加と赤字財政、食糧不足に悩まされている。

 この格差の解消のために、石油産出国の組織OPEC(石油輸出国機構)とOAPEC(アラブ石油輸出国機構)がある。OPECにはアラブ以外の他にアジア、アフリカ、中南米の石油産出国が加盟している。OAPECの加盟国はクウェートサウジアラビアリビアカタールバーレーンアラブ首長国連邦アルジェリアイラク、シリア、エジプトの10か国である。以前までチュニジアが加盟していたが、アラブの春を始めとする様々な事情により現在は脱退している。

 

 中東はアラブ世界、イラン世界、トルコ世界という三つの地域から成り立っている。このうち、イラン世界とトルコ世界を合わせて、非アラブ世界と呼ぶこともある。中東のアラブ以外の産油国としてはイランとトルコがある。オマーン北イエメンは石油が出るが、産出量はほとんど無いに等しい。

 これらの産油国の中で、自国の需要をまかない、さらに輸出する余力があり、石油関連収入で国家財政を全面的に支えられるだけの生産力を持つ国はサウジアラビアクウェートカタールバーレーンアラブ首長国連邦である。

 したがって、産油国と非産油国の経済格差は非常に大きく、一人当たりのGDPを比べると、その差は歴然である。産油国は世界でもトップクラスのGDPを誇るが、非産油国は極めて貧しい。さらにアフガニスタンイラクチュニジアなどは紛争やジャスミン革命というアラブの春によってGDPが急速に落ち込んだ。

 これらの経済格差を是正するためにアラブの国同士、イスラムの国同士で、豊かな産油国から貧しい国へ経済援助が行われた。逆に貧しい国から豊かな国へは出稼ぎ労働者としての送り出しが行われた。しかし豊かな国とは1970年代に急速に石油収入が増えたことが原因である。それがかえって国内に社会的不安を生み出すことになった。

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中東の政治・経済体制2

1.イディオロギーからみた中東諸国

 中東22か国のうち、旧ソ連(東欧型)の社会主義を掲げていたのは南イエメンアフガニスタンのみであった。アフガニスタンは人民民主党南イエメンはイエメン社会党一党独裁であった。後にイエメンは1990年にペレストロイカの影響で独立した。この両国はソ連や東欧諸国と党レベルで関係を強化していた。

 イラクとシリアはアラブ復興社会党支配下にあった。これを通称バース党と呼ばれる。バース党とは、スローガンは「統一、自由、社会主義」であった。資本主義とシオニズムを排除し、アラブ統一の実現をしようとする狙いがあった。シオニズムとは、イスラエル中心主義であり、バース党はこれを排除しようとした。旧ソ連とは友好関係にあったが、これはあくまで政府レベルのものであり、イデオロギー(党)レベルでの接触はほとんどなかった。むしろシリアとイラクでは従来の共産主義社会主義ではないとして国内で弾圧されていたほどであった。

 アルジェリアリビア社会主義を掲げることが多いが、その用語だけで国家体制を十分に説明することはできない。エジプトという国はナセルの時代と今日では経済イデオロギー的に大きく変化している。ナセルの時代は国営企業が支配的であったのに対し、サダトの時代には民間企業が成長し、後のムバーラクの時代に引き継がれている。サダト大統領は最後暗殺された。この背景にはサダト大統領がイスラエルと平和条約を結んだことによる仲間からの暗殺であった。エジプトにおいては社会主義的傾向が薄れ、資本主義的生活が強まっていったのが、イデオロギーの変化である。しかし第二次世界大戦後のエジプトがソ連東欧型の国家体制を目指したことは一度もない。

 当時のアフガニスタン南イエメンを除き、残りの国々は資本主義と社会主義のラインが非常に大きく動いている。欧米の国際政治学の用語では説明しにくい状況が続いている。

 


2.バース党の誕生とその推移

 バース党について、1953年にシリアに誕生した。アラブの統一とアラブ社会主義を掲げて、組織はレバノン、ヨルダン、イラクスーダン南イエメンに拡大した。1963年にイラクとシリアで連続クーデターが起こり、両国にバース党政権が誕生した。ところが同じバース党政権下でありながら主導権争いから険悪な関係になっていった。1966年にバース党創始者であったミッシェル・アフラクがシリアでの権力闘争に敗れてイラクに保護された。このことも両国の感情にしこりを残すこととなった。

 


3.バース党の主張

 バース党は民族的独立を目的とした従来のアラブナショナリズムに加え、急進的な社会的闘争の目的を掲げた。スローガンとして①反資本主義、②反帝国主義、③反シオニズム、の三つを掲げた。社会主義的な政党であり、アラブの統一と復興を目指しているが、イスラム教へのこだわりは薄い。バース党の方針は①社会主義的政党であること、②アラブの統一と復興を目指すこと、③宗教としてのイスラム教へのこだわりは薄いこと、である。イスラム教はアラブ国家の魂ではあるが、我々が生活する世俗世界では宗教は個人と社会の生活におおまかに影響を与えるにすぎないと主張している。バース党は後にエジプトの主導権、ことにナセルの立場と衝突をきたすことになる。両方とも社会主義であったが、最終的にはナセルの立場と衝突する。

 民族主義とアラブ社会主義という立場は1950年代以降、政治イデオロギーに弱い軍人やシリアのアラウィー派などの社会経済的貧困層に影響を与えることになる。ここから多くの人がバース党へ入ることになる。イラク、シリアのバース党員のかなりの残党がISISに入党したのではないかと考えられている。バース党のアラブ統一思想は、かつてナセルのアラブ統一スローガンと結合したこともある。その結果、1958年2月シリアとエジプトが合併し、アラブ連合共和国が出来た。(のちにこじれる。)

 

 イスラム教は大まかにスンニ派シーア派に分かれている。一般にスンニ派は多数派、シーア派は少数派と捉えられる。スンニ派は国の政治と結びつくことがあり、正統派とも言われ、シーア派は異端派と言われることがある。長い間スンニ派が政治権力を握ってきたが、現在はイラクでサダムフセインが倒し、シーア派が伸びている。アラウィー派シーア派の一派として分かれている。今のシリアでは他のアラブ諸国とあまり話し合わない独自の政策を持っている。シーア派の代表的な国はイラン、スンニ派サウジアラビアが多くを占める。

情報化社会と犯罪

学んだこと
 インターネットの普及によって、インターネット犯罪やサイバー犯罪が多く見られるようになっている。パソコンやスマートフォンなどのウイルスではなく、インターネットに繋がっているIoT家電が、サイバー犯罪の温床となっている。生活を便利にするウェブカメラだが、この製品を利用をしている家庭で他人に家の中を見られたケースがあった。通常このような製品は個人にわかるパスワードを設定し、第三者に見られないような仕組みとなっているが、プロによる簡単な攻撃で利用者認証が突破されてしまう。製品の内臓プログラムに欠陥があること、つまり製品の脆弱性は利用者にはわからないため、注意が必要である。
 脆弱性がないしっかりした製品なら安全か、という問いは一概に正しいとは言えない。使っているユーザーの使い方によっては、製品のセキュリティだけでフォローしきれない部分がある。また、国内外のインターネットに接続されたパスワードを設定していないカメラの映像を公開しているサイトがある。これはパスワードを設定していないカメラの映像を公開すること自体は犯罪にならないため、犯罪とはならないが、知らず知らずのうちに街中のカメラの映像がネット上に公開されている可能性を見ておく必要がある。
 米国のIT企業ダインにDOS攻撃が行われ、サーバーが停止する大規模犯罪が行われた。この攻撃はウェブカメラ、プリンター、ルーターなど世界中のIT機器を乗っ取り行われた。そこで、ハニーポッドを設置し対策が行われ、乗っ取りを行おうとする攻撃は一秒間に数百回の頻度で行われていることがわかった。Miraiと名付けられたウイルスは、セキュリティの弱いIoT機器のみを攻撃しようとするウイルスであることがわかった。ドイツではこれまでウイルスに狙われたことのない家庭用の機器にまで被害が及んでおり、日本でもその可能性が出てきたことで、現在対策が考えられている。
 前述したMiraiウイルスは名前が日本語の「未来」と考えられるが、このウイルスの作成者が日本人であるとは限らない。また、通常ウイルスの作成者を特定することは難しいが、すでに未来ウイルスの作成者はネット上にそのプログラムを公開している。これによってさまざまな人がウイルスを改変、改良し、より凶悪なサイバー犯罪を生む要因となってしまう。
 フィンランドでは、建物を遠隔管理するシステムが何者かにサイバー犯罪され、止まってしまった。特定個人ではなく、国全体にむけてのサイバー犯罪攻撃である場合、インターネットに接続されているインフラまで被害を被る恐れがある。2012年に行われたロンドンオリンピックでも、開会式中にサイバーセキュリティの恐れがあり、厳戒態勢が敷かれていた。当時のサイバーセキュリティ責任者は、2020年の東京オリンピックにはより大規模なサイバー攻撃が行われる可能性を危険視している。インフラ施設などに攻撃が行われると、社会全体に混乱をもたらしてしまう。その防衛手段は現在調査中である。
 サイバー犯罪に巻き込まれないためには、製造業が悪用されることを想定して安全性の高い製品を製造すること。一般の利用者もサイバー犯罪に巻き込まれる可能性があることの意識を見直すことが大切である。


考察
 IoT家電は若い世代を中心に、その便利さから普及しているがその利便性に伴ってリスクも大きい。エンジニア業界では保守・運用は縁の下の力持ちと形容されるが、ITに疎い利用者にとって、その概念が通用するかと言えば疑問である。様々な機器がインターネットに接続されているが、それぞれにセキュリティをかけているほど、意識が高いとは到底思えない。セキュリティの重大性は、実際に被害を受けた時に痛感することになるが、被害を受けた時ではすでに遅いのが実態である。
 ではサイバー犯罪の増加に対して、我々はどのような対策を取る必要があるのだろうか。動画でも言われていたが、それぞれの意識を見直すことで、サイバー犯罪についての知識を付けることだ。IPAのホームページでは、最新のコンピュータウイルスやサイバー犯罪についてのレポートが随時公開されており、ここでセキュリティについて学ぶことが出来る。他にも情報セキュリティマネジメントの受験をすることでセキュリティについてのリテラシー向上を図ることが出来る。こういった機会に触れさせることを推奨することが今後の我が国のセキュリティ意識を底上げすることが出来るだろう。

情報システムの利用形態

学んだこと

 ユビキタスネットワーク技術の確立によって、いつでもどこでもインターネットに接続できる社会が構築されようとしている。第五世代の携帯電話になると、電話線のみで光回線と同じくらいの通信速度が実現する。電子商取引(eコマース)はm(モバイル)コマースとなり、パソコン以外の端末からも取引が可能となった。携帯電話で家具を操作することや、固定電話の子機として使用することも可能となった。

 クラウドコンピューティングはインターネットなどのネットワーク経由でユーザーにサービスを提供する形態で、SaaS、PaaS、HaaS(IaaS)などがある。それぞれソフトウェア、プラットフォーム、インフラをネットワーク経由で提供する。グーグルドライブなどがHaaSに該当する。これらのクラウドコンピューティングの仮想化技術を提供するものをクラウド基盤と呼ぶ。Iotに必要な技術はセンサー、ネットワーク、クラウド基盤、低コスト・低消費電力で広範囲をカバーする通信技術などがある。クラウドのメリットは管理する手間を省くものである。現代では一人一台のコンピュータではなく一人複数のコンピュータや大量の情報を扱うことが多いため、管理が大変である。

 クラウドにデータを集中させると処理の遅延や通信量が膨大となるため、現在では分散するエッジコンピューティングの利用が進みつつある。運転などのリアルタイム性が求められる場合に強みが発揮され、限定した情報を扱うためセキュリティ確保やプライバシー保護にも有用である。

 平成に入ってからの25年間での国民医療費が倍増している。65歳以上で全体の医療費の6割近くを占めている。そのためIoTを利用して医療費を抑制しようとする動きが各社で見られるようになった。他にも金融とのフィンテック、農業とのアグリテック、教育とのエドテックなど、テクノロジーと他分野の融合を〇〇テックと表現する。決まりきった仕事を自動化するRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)による業務効率化の試みも近年注目されている。単純な作業の繰り返しでも業務品質が向上するたけでなく、生産性も向上するソフトウェアである。

 

 2/1 2017 NHKクローズアップ現代+「急増中 ネット・ワーカーの実態に迫る」

 2030年、働く人の8割はフリーランスになると言われている。長時間残業や介護の増加により働く時間に制約のある人にフリーランスが広がっているが、その実態は価格破壊や使い捨てといった問題がある。

 誤った情報の記事を書いたことによるまとめサイト問題は、雇用契約を結んでいないフリーランスが起こしたものがあった。仲介サイトからの仲介料とネット記事のファクトチェックにより記事の執筆に時間がかかり、結局給料は低い労働になっている。平均より高い水準を持っているエンジニアにとっては良い契機となるが、受注した案件の納期直前の仕様変更などがあるため、生存競争は厳しい。仲介サイトから引き受けた案件を自身が利ザヤをとりさらに孫請けに流す構造が存在している。海外ではウーバーやアマゾンといった個人が業務の一部を受け持つ働き方について、説明と違った働き方をさせられることに市民の怒りが爆発している。労働組合がない世界なので、働く側が知識を付け、会社の方に自分たちの要望を訴えていくことが必要となる。しかしこれは自由を求めるフリーランスにとって競争に勝ちにくい。仕組み自体は悪くないが、会社側、仲介側、労働者側それぞれに変わるべきものがある。

 

考察

 情報の技術は進歩しているが、技術を扱う人はその技術を使いこなせていない気がする。つまり、人類に今の技術は早すぎるのではないかと問いたい。日本では識字率がほぼ100%となっているが、その割に近年は日本語が通じない人が多いように感じる。英才教育やダイバーシティの一環で小学生それ以前から外国語に触れさせるのは結構だが、そのために母国語がまともに話せない。外国語が出来ても外国の文化をいい意味で取り入れられない企業が多いために、この国ではスティーブ・ジョブズは生まれなかった。一時期世界経済でもトップを走ったこの国が、今ではガラパゴス国家と呼ばれるようになったことを恥じるべきだと思う。筆者の考える必要なものは技術でも国際交流でもなく教育だということをここで述べておきたい。講義内動画であったフリーランスの問題が、すべからくどの組織もまともな対応が出来ていなかったことに起因する問題は、教育によるリテラシーの底上げで解決してゆくしかないだろう。教育は万能ではないため、必ずしも解決するとは言えないが、抜けられる法制度や天下り目的の政府介入はかえって状況を悪化させるだろう。

意味の捕捉と創生について

                                   2020/11/28

                                    Re:que

 

1.語の概念(意味)はどのように捉えられてきたか 

 「意味」とは『大辞林』第2版では、(1)ある行為に込められた意図・理由、(2)物事がある脈絡の中でもつ価値・重要性・意義、(3)行為に込められた気持ち、(4)ある言語表現に込められた内容・目的、(5)言語・記号などで表現され、また理解される一定の内容、といった5つの定義をあげている。この「意味」の定義を展開すると、それは物事の価値や重要性を表すものが多義であるので、語の意味となる。

 「概念」の定義は広辞苑によると「概念は言葉に表現され、その意味として存在する」とされている。概念がいかに生じるかという問いについて、実際には見ているが、意識することがないために、名前の存在を意識しない。現実世界に存在するモノに注意を向けて意識することによって、モノに境界線を設定して新たな名前をつけるときに新たな概念が生じるのである。モノの部分の名前には、人間の体にたとえられることが多いが、この理由は名前を記憶しやすくするためである。言語学では「概念」をどのように定義したらよいであろうかというと、「概念とは言語音を聞いたときに頭に浮かぶもの」と一時的に定義することが可能である。
 ある人を見て、”boy”のカテゴリーに入れるには、その人に”boy”のカテゴリーに入れるだけの属性がなければならない。このようなカテゴリー観を古典的カテゴリー観とよぶ。語の概念を、古典的カテゴリー観の考え方に基づいて捉えたのが変形生成文法家と呼ばれる人たちである。カテゴリーを形成する属性を意味素性と呼び変えて、語の概念を意味素性の集合体と考えた。さらに、彼らは意味素性を「根源的な意味であり、それ以上に分解できない最小の意味単位である。」、「人間の認識・感覚機構に根ざしているものであり、どの言語にも当てはまる普遍的なものである。」という二つの定義として仮定した。

 特定のカテゴリーを決め、提示した語がそのカテゴリーに属するかどうかを判断させる実験を行う。鳥というカテゴリーが示されると、”robin”や”sparrow”では早い反応が起き、”ostrich”や”penguin”では反応が遅い。これは鳥というカテゴリーによって頭に浮かんだ概念と”robin”や”sparrow”の概念が一致しやすい。それに対して、”ostrich”や”penguin”によって思い起こされた概念とは一致させるのに時間がかかったと思われる。”bird”という語を聞いて頭に浮かぶのは”robin”や”sparrow”のような鳥であり、これらは”bird”という語によって示されるものの典型的な例であった。それに対して、”ostrich”や”penguin”は非典型的な悪い例であった。我々は物事を見た時に、ある一定の規定に基づいた判断を下す。これをプロトタイプ理論と呼ぶ。

 鳥のプロトタイプは文脈によって異なってくる。ある状況や文脈における理想的な知識構造を背景にして、特定の語の意味を私たちは理解している。例えば、”bird-watching”をするのはどういう風に、何のためにそうするのかということについての理想的な知識構造がある。この知識を背景にした「鳥」の指すものは美しい鳥や人里ではあまり見かけない鳥、鳴き声の美しい鳥を指すことになる。これは私たちが日常生活の中で経験し学んできたものである。このような、人間の持つ理想的な知識構造をモデル化したものを理想認知モデルという。理想認知モデルは、人間が経験の中で学んできたものであるので、社会・文化・環境によって異なるものである。

 二次元的、三次元的な概念を言葉で表すことは難解である。それを図式化したものをイメージスキーマと呼ぶ。「内」と「外」は人間の体内と体外の感覚から生まれた概念であり、それが他のモノにも拡大した。日本語では「内」と「家」は同じ語で、体から家に「内」の範囲が拡大されている。このことから日本人はウチとソトを強く区別することがわかる。”I drew a line across the blackboard.”という英文があったとして、黒板”landmark”に向かって縦と横どちらに向かって線”trajector”を引くかは、”acrossの”スキーマにある主要軸による。主要軸は”landmark”の形状から規定できる場合もあれば、”landmark”の機能やそれに向き合う人間が投影する軸から定義されることもある。

 


2.語の概念(意味)はいかにして生み出されるか.

 語の意味はメタファーという抽象概念によって生み出されている。例えば“He bombarded Catherine with questions to which he should have known the answers.”という文には辞書を引かないとわからない意味と引かなくてもわかる意味がある。”bombard”には「~を砲撃する」という意味の他に、”Argument is war”という概念メタファーから「質問などで攻め立てる」という意味がある。言語・文化によって、物事をどのように見るかという概念メタファーが異なる。異なる言語の意味の理解にはメタファーの違いを知ることも重要である。“Honey, you look great today!”や“She’s the cream in my coffee.”のように、英語話者の発想には、「愛の対象はおいしい、食欲をそそる食べ物である」という概念メタファーがあることがわかる。

 言語伝達のメタファーには”A:ideas (meanings) are objects.”、”B: communication is sending.”、”C: linguistic expressions are containers.”という三つの種類が存在する。このような言語伝達の概念化は1:「概念・意味」というのは、人間や文脈とは関わりなく存在するものである。2:単語や文の言語表現は文脈や話し手と無関係に存在するものである。といった言語観を反映したものと考えることができる。モノや容器はそれ自体最初から存在しているので、それらに喩えられている「概念・意味」や「言語表現」も独自に存在にすると考えられることになる。これまでの例から,外国語の話者がどのような見方や発想で言葉を用いているか知るのにメタファーの知識が必要であることがわかる.

 

以下の例文で用いられている下線部”Time”の概念はかつて”Money”として代替されていた。

・You’re wasting my time.

・I don’t have the time to give you.

・How do you spend your time these days?

・That flat tire cost me an hour.

I’ve invested a lot of time in her.

・You’re running out of time.

・Put aside some time for ping pong.

このことから、現在で用いられる”Time is Money”の時間という抽象概念はいくつかのメタファーによって形成されていることがわかる。その形成過程で、語や表現が時間に関する新しい、抽象的な意味を獲得している。

 

 1つの概念からそれと同じ概念領域内にある別の概念にアクセスする認知プロセスを概念メトニミーという。英語における「新聞」「記事」「新聞紙」「新聞社」は冠詞の”a”や”the”を除いた表現はすべて”Newspaper”となる。これは”Newspaper”の持つ概念メトニミーがその後の用いられている文意によって変動することを意味している。また、” I bought a Ford.”といった場合の”Ford”とは会社そのものではなくフォード車で生産された車を指すことになる。概念メトニミーへのアクセスの仕方のタイプは「製作者がその製品を表す」、「容器がその中身を表す」、「全体が部分を表す」、「道具がその使用者を表す」、「使用する体の器官が、その器官によって生み出されたものを表す」など、非常に多岐にわたる。

 概念メトニミーには三つのタイプがあり、その要点は以下の通りである。

 指示のメトニミーは、様々なタイプがある。言語の使用の中で、意味へのアクセスの仕方にある程度の共通性があり、それがパターン化して、言語表現から意味へのアクセスを容易にしているのである。

 出来事のメトニミーは、AとBの出来事が時間的に連続あるいは近接して起こる場合に,Bの出来事を指すのにAの出来事を述べることである。

 感情表現のメトニミーは、興奮・怒り・誇り・喜びなどによって引き起こされる身体的状態を述べることによって、そのような状態を引き起こした感情そのものを表わすことである。



参考文献

 

松村明(編) (1999)『大辞林』第二版、三省堂 

 

新村出(編) (2018)『広辞苑』第七版、岩波書店

インターネット開発の背景と経緯

学んだこと

 クローズアップ現代「何が起きる?”モノのインターネット”革命」

センサーや通信機器の小型化によって、食べ方のクセを検出するフォークや建設現場のショベルカーに自動的に指示を出すなど、あらゆるものがインターネットにつながることで、人間の動きや社会の動きが効率化される。

 大手建材メーカが手掛ける、実際の家を使ったモノのインターネットの実験をしている現場では、家中に仕掛けられたセンサーによってさまざまなデータを収集している。どんな生活によって具合が悪くなるかといったデータを集めることで、建材メーカーだけにとどまらない、世の中への貢献につながる。一つの家だけでなくより多くの家からデータを集めて分析することで、人々の生活そのものを変える機会となる。

 土木工事の建設機材の稼働時間や稼働数から、セールスの重点地域を絞ることが出来る。必要な機材の数や時間も、熟練なオペレータでなくても正確な試算を行うことが出来る。さらにアメリカ、ニューヨークのGE社では、自らをソフトウェアとデータ分析の会社と呼ぶようになった。GE社の提案する最も効率のよい飛行ルートを採用することによって、台湾の航空会社では燃費のよい飛び方を出来るようになり、会社の利益も上がった。GE社によると、データの使い方を顧客に提供することによって5年後に勝者となる。

 東京大学先端科学技術研究センターの森川さんによると、ゴミ箱などの地味なところからデータとの接続が始められている。データの売り方はサービス化という顧客に対して売りっぱなしではない提供になってゆく。モノを売るだけでは様々な人が同じ製品を作ることが出来るようになってきたので差別化が出来ない。サービス化によって顧客を囲い込むことが必要になってくる。人間と機械の関係が変わってくると違和感を感じるようになる指摘がされている。すべての分野にIoTが入ってくるので、そこにこれまでにない新しい職業が生まれてくる。

 欧米では激しい覇権争いが起こっている。大手電機メーカー、シーメンスは個客一人一人の好みにあった香水を作る技術を確立した。ドイツではインダストリー4.0の規格を標準化し、さらに世界標準とすることを目指している。メルケル首相はEUで進めることでさらなる成長を見込めると発表した。

 アメリカでも世界標準をつくる動きが見られ、日本の大手メーカー5社もアメリカに乗り遅れないように立ち上がった。統一規格を海外に独占されてしまうと日本の国際競争力が大きく損なわれるリスクとなる。GEは集まる場を作ろうとしている。多くの人が使えるプラットフォームを作ることで、円滑なやり取りが出来るようになり、様々な価値が創造される。そのプラットフォームの核を作ることをドイツやアメリカは競っている。日本の企業はそれぞれの技術力が高いが、集まる場を持っていないが、オープン化による企業秘密の露呈をリスクと捉えている。アメリカもドイツもアドバルーンを上げている状態であり、日本は様子見といった動きを見せている。

 我々の身の回りには多くのデータがあるので、どのように使ってゆくか考えていきたい。



考察

 ユビキタス社会の実現はインターネット黎明期の十年以上前から言われており、近年その実現に向けて様々な機器が市場に出回っている。多くの製品はそれ単体で動き、動画で言われているような高度な情報機器の連携は実現に至っていないように思われる。スマートフォンの出現と普及によって、これまで音楽を聴く、スケジュールを管理するといった様々な活動が、一つの端末に集約されてきた。生活が便利になることは我々の生活を変えているが、それにより得られる効用は必ずしもいいことだけではないことを考えたい。動画内でも、効率的な選択が出来るようになると言われていたが、効率的であることだけが生活する上での正解ではないと思う。機械による効率的な選択が本当に必要なのか、考える力を人間が身に着けることがこれからの社会では必要だと考えられる。