学生の思想を読む

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未病ビジネスの可能性と将来性 ―未病を改善するために、どんなビジネスが成り立つか―

1、はじめに
 最終レポートのテーマが各人自由と定められた時、多数の方々はとても真面目な社会問題をテーマとして選択していた。他の人と被らない独創的なテーマを選択したいがために、筆者が高校生のときに生徒会活動で扱った題材がふさわしいと思い、「未病ビジネスの可能性と将来性」に決定した。少子高齢化に伴って延命医療や介護産業の需要が増しているが、患者を多数のチューブで縛り付けるような延命技術は本当に必要とされているのだろうか。人間らしい生き方を、最後の時までできるようにすることが未病産業の到達目的でもある。未病ビジネスの将来性は、これから発達してゆくことだろう。
 このレポートの問いを、「未病を改善するために、どんなビジネスが成り立つか」とする。まず本論1では、未病に関する概念の説明を記述する。ここでは未病の歴史と成り立ちとその背景についての説明も行う。本論2では、現在の未病ビジネスについての取り組みの記述をする。今日の社会でどのように未病が産業として成り立っているのかを実例を交えての説明を行う。本論3では、今後の未病産業に関する予定や構想を紹介する。また、未病ビジネスがどのように社会へ貢献されてゆくのかを考察する。最終的に未病ビジネスの将来性が確立することで、今後のさらなる人類の発展へ繋がることを願ってやまない。

2、未病の概要
 未病とは、健康と病気のどちらの状態でもない状態を言う。さらに詳しく説明すると、これまでは心身の状態を「ここまでは健康、ここからは病気」と明確な線引きで捉えていたものを、健康と病気の間を連続的に変化するものと捉え、この変化の家庭を表す概念としている(神奈川県2016) 。人間の健康状態は健康と病気の二項対立の概念で説明できるものではない。健康と病気の間を行ったり来たりしており、その間が未病なのである。未病を改善するというのは、少しでもその未病の状態から健康の状態へとなることである。未病を改善するための要因として神奈川県があげていることが、”食”と”運動”と”社会参加”である。
「未病」は、元々中国の伝統医学である中医学、つまり漢方の言葉である。中国最古の医学書である「黄帝内径」で初めて使われた。この医学書では、「成人は既病を治すのではなく、未病を治す」という記述がされている。しかし、この未病の概念が今の中国にも受け継がれているかと言うとそうではない。現神奈川県知事(2017年現在、二期目)の黒岩(2016)は中国や台湾に訪問し、要人に対してこの未病のコンセプトについて語った際には、そのたびに「初めて聞いた」と感心され、「その考えは実に素晴らしいですね。それは我が国では予防と言うのです」と言われたりして愕然としたと語っている。現在では、”THUNAMI”のような国際的な用語として”ME-BYO”という表記を用いて神奈川県から世界へとPR活動を行っている。

3、現在の未病産業
 未病産業を創出することは、やがて国民皆保険の保護に繋がる。神奈川県の2050年の人工ピラミッドの予測では逆三角形の形になっていて、85歳以上の高齢者が全世代のなかでもっとも多い世代となる。この超高齢社会が現実に起こると、若い世代よりも病気や怪我になりがちな高齢者が病院に駆け込むことになり、病院などの医療機関は機能不全に陥ってしまうことが予測される。つまり、国民皆保険を初めとする社会制度自体の存続が危うくなってしまうのである。それを打破するカギを握るのが未病コンセプトである。病気になってから治すのではなく、未病の状態から改善し、少しでも健康な状態で生きる期間である健康寿命を伸ばす試みが重要とされるべきである。
 未病コンセプトは、すでに神奈川県の中で幅広い活動が始まっている。神奈川県での未病コンセプトの推進を進めるために、県が未病産業研究会を立ち上げた。未病産業に対する出資を募ると、参加企業は瞬く間に350社を越えた。大手スーパーのイオンはいち早く、未病コンセプトに反応した。大和市秦野市のイオンでは店舗内のオープンスペースを利用して介護予防体操やダンスが披露された。これを機に、イオン店内のそれぞれの売り場ごとに未病コンセプトの解説ボードが設置され、ショッピングしながら未病への意識が高まるようにレイアウトが変えられた。たとえば健康食品のコーナーにジョギングシューズも同時に売られていて、食生活と運動がいかに大事かのメッセージが掲示されており、健康食品を買いに来た人がジョギングを始めるきっかけをつかめるようなレイアウトになっている。

4、これからの未病産業
 これからの情報化社会に倣って、神奈川県は「マイME-BYOカルテ」を導入した。これはスマートフォンを利用したアプリケーションで、利用者の健康状態や処方薬の情報などを管理するものである。自分自身の未病の改善に繋がる情報が確認できる。将来的には診療情報や遺伝子情報なども管理できるようになれば様々な応用が効く。東日本大震災の際、津波の影響で病院のカルテが無くなってしまう問題があった。そのような震災が起きた場合の防災危機管理の視点でも有効な手段となる。しかし、筆者もこのアプリケーションを利用したが、あくまで情報の管理程度のものでしかなかった。さらなる改良によって未病を治すことを意識させるだけでなく、実際の行動を促すような特徴が必要である。
 極論的に言うと、未病産業が発達した社会では医師という職業は消滅する。今日でのウェアラブ端末などを用いた健康管理は、あくまで日々の身体データを集計しているに過ぎない。しかしこれからの時代は、そのデータを元に利用者の体調等が少しでも優れない場合は早期のリカバリーが可能となるものとなる。人工知能を活用した未病状態の管理から、病気の早期発見を実現させ、極めて効率的な最先端の治療を施すことができる。未病と病気そのものをアルゴリズムとして治療する社会が到達するのである。その社会が到来すると、医者という職業のすることは、予測不可能で突発的な骨折などの外科手術と分娩手術程度に収まってしまう。衆議院議員の片山(2015)によると、この劇的な変化が20年以内には到来するとしている。将来人口推計によると、2030年には日本の総人口の三分の一が高齢者となるとされている。未病産業を活性化することにより、日本の健康寿命を伸ばしてゆくことが、今後の発展に必要不可欠である。

5、おわりに
 以上述べてきたことから、未病産業の創出は少子高齢化が進むこれからの日本にとって必要なものであることがわかった。本レポートでは、第1に未病の概要と起源についての解説を示した。”THUNAMI”のような国際的な用語として”ME-BYO”という表記を、神奈川県から世界に向けてPRしていることを説明した。第2に、現代と今後の日本にとっての未病産業がいかに重要かを説き、現在までで行われた未病に関する具体的な活動の例をいくつか紹介した。第3に、これからの未病産業の可能性を秘めた神奈川県の活動と現役の国会議員による未病産業を視野に入れた未来予想を紹介した。ここでは未病産業が発達すると、病気をアルゴリズムとして処理する社会が到来するといった革新的な意見が出された。
 神奈川県は、政府に対して未病産業を推進する提言をしながらも、アメリカのマサチューセッツ州シンガポールなどを初めとする国外との覚書締結をすでに遂行している。既存の体系に依存していることによりフットワークの重い日本政府が、未病産業という新しい概念に積極的に関与していかなければ、外国諸国にさらに経済格差をつけられかねない。極東の国家の、一地方自治体である神奈川県が出来ることには限界がある。政府が高齢化を真剣に考えて未病産業に取り組み、世界の手本となるべきである。また未病産業は、今後確実に到来する超高齢化社会に対応するための策として最も有効なものである。世界でもトップクラスの長寿国の日本がさらに健康寿命の引き上げに成功すれば、国家として得られる利益は少子化の改善だけに留まらないであろう。(3,268字)

参考文献
片山さつき(2015)『未病革命2030』日経BP

神奈川県HP(2016) http://www.pref.kanagawa.jp/cnt/f532715/p1002238.html
(閲覧日:2017年7月3日)

黒岩祐治(2016) 『百歳時代―“未病”のすすめ―』IDP新書