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「機械学習」革命 -「機械学習」時代において私たちは何を学ぶべきか-

                            作成日:2020年11月7日

                                    Re:que

            「機械学習」革命 

     -「機械学習」時代において私たちは何を学ぶべきか- 

 

序論

 情報科学Ⅰの第1回LTD学習において、筆者のグループでは「機械学習」革命の時代に、人間が学習することそのものの意義が改めて問われているという議論をした。情報化社会において、人類が高度に発展した情報網を利活用する社会では、実際には我々人類が情報に使われている様相を見ることは少なくない。2000年代の携帯電話の普及による社会を、正高信男はその著書で『携帯を持ったサル』と形容した。今我々が学んでいることのほとんどは、インターネットに存在する情報そのものをインプットしているに過ぎないかも知れない。これからの社会に求められる学びは、得られた情報をどのように活用していくかという創造的なものだろう。

 そこで、本論では新たな時代に向けた人間の学習について論じる。これは機械学習によって既存の仕事が失われる危惧に対する抵抗であり、人間が人間であることの意義を問うことと同義であることをここで述べておきたい。

 まず第1章では機械学習の領域がどのように成長し、どんなことが出来るのか、出来ないのかをコンピュータ将棋ソフトの例を踏まえて紹介する。その後、現在のトレンドから今後の研究によって実現する社会を調べる。第2章ではこれからの時代における人間側の学習の必要性とその方法について述べる。

 

 

第1章 機械学習の成長と今後

 2013年4月に行われた人間とコンピュータの将棋対局、通称電王戦で、プロ棋士三浦弘行九段(当時八段)が将棋ソフト「GPS将棋」に敗れた。「GPS将棋」は東京大学駒場キャンパスにある788台のコンピュータを使い、大規模クラスタ構成することによって運用される。開発に携わったのは東京大学准教授の田中哲郎氏と森脇大吾氏であり、大学から特別な許可をもらって構築が行われた。三浦氏は12年連続でA級に在籍した、将棋界最強棋士の一人であると言われている。

 そもそも最初のコンピュータ将棋ソフトは1970年代半ばに作られたとされている。当時のソフトの能力はアマチュア初心者レベルのものであった。その後2005年に橋本崇載氏(当時五段)が北陸先端科学技術大学院大学の開発した将棋ソフト「TACOS」に辛勝したことをきっかけに、日本将棋連盟が公開対局の禁止令を出す。この時にソフトの実力はアマチュア強豪レベルにまで上がる。2010年には清水市代氏(当時女流王将)が、情報処理学会が開発した「あから2010」に敗北した。ここでコンピュータ将棋ソフトの実力はプロ級にまで成長している。

 では、2013年以降のコンピュータ将棋ソフトに人間側はもう勝てないのだろうか。その不安は、2015年3月に行われた電王戦FINAL第2局で、永瀬拓矢氏(当時六段)が払拭する。人間対機械の対局では、長時間の対局になるほど人間の疲労が溜まるために人間側が不利になる。第2局でも対局が長引くことが予想され、人間側の不利が不安として懸念されていた。対局の途中で永瀬氏は「2七角成らず(王手)」と相手陣地に打った。将棋のルールとして相手陣地に打った駒を成らせる(裏返せる)ことが出来るのだが、永瀬氏はあえて成らずを選択した。大抵の場合、駒は成らせた方が強力な駒になるのだが、成らせないことはルールに反する行為ではない。対局相手の将棋ソフト「Selene」で機能するプログラムはこの成らずという行為を想定していなかった。そのため掛けられた王手を無視して別の手を選び、コンピュータ側の反則負けとなった。

 2012年1月に第1回電王戦に単身挑み、敗れたのは米長邦雄永世棋聖である。米長氏はその後のインタビューで、コンピュータには人間に及ばない欠陥があり、その欠陥が何であろうかということをプロ棋士が真剣に考えて対応すれば、人間が負けることはないと述べた。次章では人間がコンピュータの欠陥を埋めるために何が出来るか、またそれをどのように行うかを提示したい。

 

 

第2章 学びの必要性と方法

 コンピュータに出来ることと出来ないことを認知する我々は、その強みを生かした学びをしてゆく必要がある。筆者グループでのLTDでの話し合いでは、進歩する技術を活用するための力を養う必要があることを議論した。そこでこの章では、新しい技術や知識をどのように仕入れるのか、またその応用方法を同時に学ぶためのヒントを模索する。

 情報収集の手段は、インターネット、新聞、テレビ・ラジオ、書籍・雑誌などがある。またそれぞれの情報源には、政府や企業からの公的なレポート・プレスリリース、研究の論文・特許、報道機関の発表、個人のブログ・SNSによる口コミ、メーカー企業などのSNSメールマガジンなどの種類がある。それぞれにおいて得られる情報の信頼性や粒度に差異が存在する。

 情報の信頼性については公的(public)か私的(private)かの高低、粒度は実用的(practical)か専門的(technical)かの大小という二軸の表で表すことが出来る。これを二軸が交差する表とし、上述したいくつかの情報源の種類を表示させたものを以下に示す。

 

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 信頼性は情報の正しさについて表しており、査読がなされる論文や特許、税金によって責任をもって作られる国のレポートや投資判断に用いられるプレスリリースは信頼性が高い。一方、私的なブログ・SNSはそのようなファクトチェックが行われていないものが多く、根拠に欠けるため信頼性は低い。

 粒度は情報の受け手への可用性によって異なる。技術的な論文や特許、投資家の用いるプレスリリースは専門的な用語が多く見受けられ、多くの人にとっては扱い辛いものとなるために粒度は小さくなる。マスメディアやSNSを用いた報道や、SNSなどは多くの人にとってわかりやすくかみ砕いた説明がされるため粒度は大きくなる。私的なブログ・SNSは他の情報源よりわかりやすい説明をしているものや、査読の無い未完全ではありながら有用な研究成果が点在するために、粒度の差は極めて多い。

 このことから、信頼性が高いものほど情報の可用性は上がり、粒度が大きいほど多くの人にとって使いやすい情報ということになる。

 

 

考察

 本論ではLTDで議論した内容を発展させ、機械学習を用いた将棋ソフトの成長とその弱点から、機械の弱点を補完する試みを考察した。

 第1章では、将棋のプロ棋士がコンピュータに敗れたその背景に、長年のコンピュータ将棋の研究があったことを紹介した。永瀬氏が対局で行った、「成らず」はルールにはなんら反していない行為が、将棋ソフトのプログラムに組み込まれていなかった不具合を的確についたものだった。つまりこれは、人間の計算能力を大幅に上回るコンピュータというものが教えられていないものの計算は出来ないことを表している。コンピュータは厳密なデータを根拠に計算するため、人間でいうところの「だいたいこのくらい」という表現が出来ないことや、今回のように「もしこっちの選択をしたら」という場合に選ばれる選択が、プログラムに用意されていない場合には演算が不能になる。

 第2章ではまず情報を手に入れ、その活用を人間が行うのか、機械にやらせるのかを判断することが重要であることを説いた。いくつかの情報源から得られる情報の種類を整理し、信頼性と粒度の二軸の表に示した。この表の注意点としては、信頼性が高く粒度が大きいものだけから情報を得ることに偏らず、大小さまざまな粒度の情報を手に入れられるようにしたい。また、近年多くの学生は情報の仕入れ先をインターネットに依存するが、そこには多くのデマが混じり、信ぴょう性が低いことを意識したい。

 

 

参考文献

 

正高信男 (2003) 『ケータイを持ったサル: 「人間らしさ」の崩壊』中公新書

 

中田 敦 (2014) 『日経コンピュータ1月9日号』日経BP

 

日経新聞 (2013年6月26日) 「電王戦「将棋ソフト、本当の強さはこれから」コンピューター将棋研究第一人者の飯田教授に聞く」朝刊

 

米長邦男 (2013) 『米長邦雄永世棋聖インタビュー 第2回将棋電王戦』

https://www.nicovideo.jp/watch/so20075169(閲覧日:2020年11月7日)