学生の思想を読む

国ではなく国語に住む我々の、思考の差異を追求します。

日本における外国人介護士は活躍できるか

1.序論
内閣府発行の平成27年少子化社会対策白書(以下、内閣府2015)によると、1991年以降、少子高齢化による出生率が減少傾向している。少子化を主要な原因とした企業の人材不足の中でも特に、「低賃金・重労働」といったネガティブなイメージが若者の介護職離れを引き起こしている。団塊世代の高齢化により、今後より一層介護職の需要が増加する見込みである。日本の労働力不足に、外国人介護士がどのように活躍できるのかを問いとして本レポートにまとめた。はじめに日本の介護産業の現状を説明する。次に日本で働く外国人介護士についての意見や問題点をまとめる。最後に前項についての原因と対策提案とする。なお、本レポートでは以下より介護福祉士をはじめとする介護職従事労働者を、まとめて介護士と形容する。

2.日本の介護産業
日本の介護産業の人手不足は深刻化している。厚生労働省の統計調査である 2025年に向けた介護人材にかかる需給推計(確定値)について(以下、厚生労働省2015)によると、2025年には国内の介護士の供給数は215.2万人にも及ぶとされているが、対する同年の需要数は253万人となっており、不足数は37.7万人とされている。一方で、介護職員数は、2000(平成12)年度の制度創設以降、13年間で116万人も増加(約3倍増)しているが、人手不足が続いていることに変わりは無いのである。

3.日本で働く外国人介護士
外国人介護士について、(鈴木・宮島2014)は、介護士の労働力不足は合理化や省力化
で対応できる分野ではないため、国籍を問わない介護士の迎え入れをするべきだと述べ
ている。外国人介護士の受け入れによる良し悪しの意見をまとめた介護のお仕事(2016)によると、デメリットとして、OJTの長期化や、言語・文化の違いから生じる不利益や職員間の連携が困難になることが挙げられている。対するメリットとしては、異文化に触れるコミュニケーションは、職員間だけでなく利用者も違った価値観や考え方を得ることができるなどが揚げられる。また、現在介護施設に入居している外国人の利用者に対しての対処がより容易になることも挙げられている。


4.原因と対策提案
外国人介護士を今後さらに受け入れるに当たって、酒井 穣(2016)によるとその問題となる原因は大きく分けて三つ存在すると述べている。一つ目は給与面である。全産業平均よりも、年収ベースで100万円も安い介護職の報酬は、全産業平均並にまで高める必要がある。ただ平均を高めるのではなく、経験・能力・仕事ぶりにより、キャリアアップが可能な構造にするべきである。二つ目は外国人介護士に対する日本語の語学研修とOJTをまともにできるような体制を立てることである。現在外国人介護士にまともな研修ができる余裕のある事業所は極めて少ないため、給与面の改善を行い介護産業の魅力を引き出せば、国内の介護士数も安定し、外国人にまともなOJTが施せる余裕ができるのである。三つ目は外国人労働者の安定した定着をさせるべきである。せっかく日本で介護士として働けるようになったとしても、景気の向上により他業界に転職してしまうと、OJTを始めとする今までの研修時間や費用が無駄になってしまうのである。一時的な出稼ぎではなく、日本に移民する気持ちのあるなしを判断すべきで、日本への移住を今より容易に実現できるような制度を整えるべきである。

5.まとめ
 以上のことから、日本の介護士の数は増加しているが、依然として人材不足が続く中で働く外国人労働者は、その労働環境が劣悪であるなどの理由から、継続的に従事することが難しいといった問題に直面している。しかし、異文化交流に対するポジティブな意見や風潮も出てきており、その結果から外国人介護士の受け入れ自体は行ってゆく価値のあるものといえる。受け入れをより良いものにしてゆくために、まずは国内基盤を整える必要がある。国内外を問わず、誰もが住みやすい国にすべきである。そのためには政府の行動に依存するだけでなく、我々一人一人で意識を改革してゆくべきなのである。
(1694字)

 

 


参考文献
・介護のお仕事(2016)『介護求人・転職サイト』
https://www.kaigo-shigoto.com/lab/archives/5137(閲覧日:2017年5月11日)

厚生労働省(2015)『2025年に向けた介護人材にかかる需給推計(確定値)について』
http://www.mhlw.go.jp/file/04-Houdouhappyou-12004000-Shakaiengokyoku- Shakai-Fukushikibanka/270624houdou.pdf_2.pdf(閲覧日:2017年5月11日)

・鈴木 江理子・宮島 喬(2014)『外国人労働者受け入れを問う』岩波ブックレット

・酒井 穣(2016)『KAIGO LAB外国人の介護職員もがんばっている!ですが、受け入れ環境は過酷です。』http://kaigolab.com/facility/7317(閲覧日:2017年5月11日)

内閣府(2015)『平成27年少子化社会対策白書』
http://www8.cao.go.jp/shoushi/shoushika/whitepaper/measures/w-2015/27webgaiyoh/html/gb1_s1-1.html(閲覧日:2017年5月11日)