学生の思想を読む

国ではなく国語に住む我々の、思考の差異を追求します。

株主有限責任制度

【概要】
 株主有限責任制度とは、会社法第104条の「株主の責任は、その有する株式の引受価格を限度とする。」ことである。つまり株主は出資した額を上限とする責任を負うのみで、それ以上の責任を負わないという意味である。
この制度は会社の所有と経営の分離のために設置されたもので、法律上は定款で取締役資格を株主に限定せず、広く有能な経営者を募ることが出来ることを株式会社の理念とするためにある。A.バーリーとG.ミーンズによって、実際には所有と経営の分離ゆえに、経営者に対する監督が必要となることが説かれている。
 株主有限責任制度は株主・債権者・会社など立場によって捉え方が変わる。株主にとってはリスクの上限が有限であるため、投資活動がしやすくなる。また、株式の取得と譲渡が容易となり、投下資本の回収も容易となることから、株主にとって有利な制度と言える。
 対して債権者は原則として、株主に対して債務の履行を求めることは出来ないため、債権者にとっては不利な制度である。つまり、会社債権者は倒産時に会社財産で満足を得ることが原則となる。
 そして会社にとっては、株主有限責任制度によって有利となった株主の積極的な投資活動によって、会社の資金調達の可能性が向上する。このことから、株式市場の動きが活発化し、市場そのものの制度や金融証券取引法などの法律が整備されてきた。

 

【問題点と対策】
桜井(2014)は、東京電力の経営責任および賠償責任に関する議論と実際における最大の問題点の一つは株主の責任が曖昧になっていることである。さらに、株主責任を明確にすることは、モラル・ハザードを生み出さなくし、事故を予防するためにも必要である。としている。これに対し八田(2012)は会社更生法による法的整理方式を提言している。
八田の提言は株主と債権者に責任を果たさせるという点で意味を持つが、これは株主有限責任制度の下では、単なる出資金を放棄すれば良いということでしかない。このことから桜井は株主有限責任制度の問題点を以下のように批判している。
第一に、無責任を生み出していること。第二に企業不祥事を生み出す原因となること。これは有限責任によって失う可能性があるのは出資金だけだと知っているので、巨額な資金が集まりやすい。しかし、経営活動によって社会的な損害を与えた場合には、そのコストが社会全体に押し付けられる(株主は出資金を失うのみである)ことを問題としている。この問題の対策として、スティグリッツ(2006)は会社の株の20%を保有する者は企業全体が倒産した場合でも責任を負うべきだろうと大株主への無限責任の導入を提案している。
 このことから、桜井は企業不祥事を防止するためには株主に無限責任を課すことが重要であり、またその実現が可能ではないかと主張していることがわかった。さらに企業の賠償問題の解決だけを考えたことではなく、株式会社のありかたを問うている。株主が他のステークホルダーと同等の地位に立って、取締役を監視するようになるべきだという主張をしている。

 

【考察】
 桜井の主張は現行の株主有限責任制度では株主の所有と経営の分離制度における企業の在り方に問題があるとするものである。これを受けて筆者は、たしかに株主が株を所有していても、また株主総会への出席を以てしても企業不祥事の防止にはならないと実感した。筆者は、SNSサービスであるLINEが展開するライン証券で株式投資を行っているが、これまで企業の不祥事問題について考えたことが無かった。財務諸表上の経営活動のみに着目し、実際に企業が起こしている社会的な問題に目が行きづらい現行の株主が有利な制度にはセキュリティホールがあると感じた。また、本文では触れなかったが、同じように株主有限責任制度について難色を示す論文は今西(2004)、並木(1987)など少なくないこともわかった。筆者は法律についてのレポートを執筆するにあたって、法律として定まっているものを議論する必要性があるのかと疑問を持っていたが、こうして批評意見に触れてみると法律の世界にも一概には決められない考え方があるのかと気づきを得た。

 

 

 

 

【参考文献】
桜井徹「企業不祥事と株主有限責任制―東京電力福島第一原発事故に関わって―」、2014、『社会科学論集 第142号』

八田達夫「東電再生の課題① 『破綻前国 有化』は前途多難」、2012、『日本経済新聞』5月10日付

野村證券「証券用語解説集」、https://www.nomura.co.jp/terms/japan/ka/kaishakousei.html
2020/05/16閲覧

YCG経営ナレッジ「M&A事業承継用語集 企業再生・事業再生」、https://www.ycg-advisory.jp/knowledge/glossary/houtekiseiri/
2020/05/16閲覧

Stig litz, Joseph E, Making Globalization Work, W.W. Norton & Company(楡井浩一訳『世 界に格差をバラ撒いたグローバリズムを正す』、2006、徳間書店

今西宏次「株主第一位の規範と株主有限責任制―コーポレート・ガバナンスと株式会社財務に関する研究との関連で―」、2004、『大阪経大論集 第55巻第3号』

並木和夫「株主有限責任の原則の検討:過小資本の問題を中心として」、1987、慶應義塾大学法学研究会