箱根の地域内循環
地域内循環について述べたうえで、ある地域についての取り組みを探して分析する。
地域内循環とはその地域の経営資源の循環のことで、地域内のストックとフローをデータとして数値化したものを地域内循環係数と呼ぶ。地域活性化のためには外部から仕入れた経営資源をどれだけ循環させるかが重要となっており、この循環係数の値が少ないほど外部へ資源が流出していることになる。
全国に展開するチェーンストアは、中央集権的なシステムによって売上の一部を本部にロイヤリティとして集約する。近場の便利なチェーンストアが利用されることによって、地域で生産されたものが利用される機会が減り、都市部へカネの流出が起こってしまう。外部への流出を防ぐために、また地域内での循環を増やすためにどのチャネルから流出しているかを調査する必要がある。
地域での問題をある程度調査した後、地域資源の分析としてSWOT分析を行う。その分析の結果から地域で取るべき対策や施策を考えることで、地域活性化の実現を目指す。
筆者は自身の就職先地域である神奈川県箱根町について調べる。行政の統計情報を元に展開されるRESASを用いたところ、2013年の地域経済循環率は131.3%であった。箱根町の数値が100%を超えていることから、他地域から流入する所得に対する依存度は低いと捉えられるものの、産業別の付加価値生産額は第三次産業が最も大きいことがわかる。また、このデータは2013年のものであり、直近の数値とは異なることが予想される。その根拠として、近年のインバウンド需要の増加から箱根町に限らず観光地への外資系宿泊施設が進出する様が頻出するようになった。さらに、2020年6月6日の産経新聞[1]では、中国富裕層が経営不振に陥った箱根の旅館を買収する旨の記事が示された。旅館の経営不振は新型肺炎の情勢によるものとさているが、今後このような事例が箱根以外の旅館でも、また他の業界でも起こり得る可能性は否めない。観光地として多数の外貨が流入してくることは地域内での流動性を生むが、オーバーツーリズムの問題や地域市場そのもののレッドオーシャン化に繋がる恐れがあることも視野に入れなければならない。この懸念点の対策としては他産業との収束化が考えられる。三次産業そのものへの依存は、外貨流入への依存が問題点であることから、自地域での生産・流通手段を持つことが望ましい。箱根町は人口問題も抱えており、流出・転入の人口移動が収束しない場合において、2040年に若年女性が50%以上減少し、人口が1万人未満となることがわかっている。
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ポジティブ |
ネガティブ |
内的要因 |
強み 歴史的な有名観光地 観光地としてのアクセス良好 都市企業に依存しない独立市場 |
弱み 地域住民の高齢化 他地域への転出 地域内関係の不透明性 |
外的要因 |
機会 国内外からのツーリズム需要 高齢化による健康・未病志向 産業収束化 |
脅威 外資系企業の参入 上記に伴う外国文化侵攻 需要過多によるオーバーツーリズム |
上記SWOT分析のうち、機会に属する産業の収束化は筆者の卒業論文で構築した図1によって説明される。産業の収束化、つまり六次産業化を行うことによって地域内ブランドの流通チャネルが確立し、地域性を求める観光客に対して適切なソリューションを提供することが可能となる。地元産業が協力しあうことによって、本来外から仕入れていた材料などを地域内で補うことで地域内循環係数の更なる上昇を見込むことが出来る。